心のヒゲ

「誰が誰だか見分けがつかないね。」

日常の写真を母親に見せた時のその一言で気づいたのだが、僕の周りにはヒゲばかりいる。

仲の良い先輩はもちろん、同世代や後輩、インスタグラムのタイムラインもヒゲ率高めだ。
単なる職業柄といってしまえばそれまでだが、その中でもある種の癖とも言えるように、積極的にヒゲに囲まれている。

醤油系ヒゲ、中東系ヒゲ、実はキラキラなアイドル顔を隠すヒゲ、ヒゲにならない産毛をヒゲに昇華したヒゲ。
方向性は多岐に渡るが、外野からみればただのヒゲ。個々のキャラクターについて上手く伝えるのは、なかなかに難しい。
曖昧なニュアンスこそがキモ、というのはどの分野においても同じだ。

ここまでヒゲを求めるのはなぜか。
それは圧倒的に薄塩顔で、良いヒゲに恵まれなかった自分の無いものねだりの投影に他ならない。

ダンサーなら誰でも憧れるドレッドロックスや、アフロ、ブレイズなどのブラックヘアーも合成画像みたいになっちゃう圧力ゼロパーセントの地味顔のおかげで、初対面の人にも容易くナメられてきたのだ。

内面の反骨精神はそっちのけで、ビジュアル面のみであっさりな印象を付けられて得することは少ない。いつだって心のアティテュードは、ヒゲを沢山蓄えた、こってり濃厚顔なキャラクターのつもりだ。

どうにも不毛な身の上話が長引いたが、今回の特集するUK SOULには特殊なシンパシー。
その名の通り英国で産まれたコンテンポラリーなR&B/ソウル音楽は、大方"あっさり/爽やか"でその魅力を片付けられることが多いからだ。

確かに、英国特有の風通しの良いトラックやヴォーカルの乗せ方は、最大の特徴の一つではあることはだが、それに終始してしまうのはあまりに惜しい。
一見スルッとしている肌触りの内側には、US産のR&Bでは得難い程こってりしたブラックネスと言う名のヒゲがたっぷり生えている。

そう、UKソウルは"こっさり"だから、天下一品なのだ。

くだらないダジャレで締めてしまったが、セレクションには自信がある8曲。シャーデーやミーシャ・パリス、カーリン・アンダーソンといったベテラン(出身地は英国でなくとも、活動を主にしているという点で選出)から、新世代を担う注目のシンガーまで、誇り高き英国の魂を是非感じてほしい。


"Deep UK SOUL 〜もう薄口じゃ済まさない〜" by Yacheemi on AWA



さて『B-Side of Love』と題して1年続けてきた当コラムも最終回。
締め切りを幾度も過ぎ、担当者各位に多大なるご迷惑をおかけしたことを深くお詫びしたい。
時間をかけた分、全テーマ妥協をせずに自分なりのコンセプトで選曲させていただきました、、と醜い言い訳。

なんにせよ僕のプレイリストを聴いて、新しい音楽との出逢いがひとつでもあればこれ幸い。
表だけでなく、B面の音楽、ダンス、人生を愛する人々が、もっと生きやすい世の中になりますように。

お相手はヤチーミ a.k.a. タコ神様、またの名をハマの新生物でした。拙文にお付き合いいただきありがとうございました。またどこかの路地裏で、お逢いしましょう。

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